たんなるおしゃべり

おしゃべり四夜目

『みんなで戦うための考え方』

今回のおしゃべりは、最初の一言に少し驚かされました。黒川さんがさらっと口にした、「最初の対話で、仕事の半分は終わってるかも」という言葉。相手の背景や不安が見えて、それを言葉にして返すだけで、ふっと空気が変わる瞬間がある。その話を聞きながら、僕が本屋・platform3をはじめたときに、黒川さんに相談したあの時間を思い出していました。

仕事の半分は、最初の対話で終わっているかも

Tan

黒川さんは、SHIPYARDという場を立ち上げて、やること・やらないことを自分で決めてきたじゃないですか。そういう意味では、普通の会社員よりもずっと「何をするか」を選んでいると思うんですよね。そこには、どんな基準があるんでしょうか。

Naru

私はデザイナーではあるんだけど、絵を描いたり、ビジュアルをつくるのがめちゃくちゃ得意、というタイプではなくて。それよりも、相手の存在とか、その人がつくろうとしているもの、あるいは「こう在りたい」と思っていることを、言葉にするのが、たぶん得意なほうなんだと思う。

だから、最初のヒアリングの段階で、「あ、これ、仕事の半分は終えてるのかも」って感じることがある

Naru

「きっとこういう背景があって、だからあなたはこれをこうしようとしている。でも、こことここがまだ繋がっていないから、不安になって、いま私に相談してくださってるんですね」

そういう構図が、地図を見るみたいに見える感覚というか。それをそのまま言葉にすると、泣いちゃう人もいるし、ホッとしたり、「来てよかったです」って言ってくださる方も多い。

本当は、それだけを毎日やっていたほうが、世のため人のためになるんじゃないか、って思うこともある。でも、それだけをやる仕事ってないし、ただ言葉にして渡すだけで「じゃあね」って終わってしまったら、その人はやっぱり困ってしまう。だから、ちゃんと形にするところまで、一緒に伴走したい。

Tan

それ、僕も体験したことがあります。いま話を聞きながら思い出したんですけど、友松さんと一緒にplatform3を始めるときに、運営について相談しに行ったときのことです。

Naru

あ、あのとき。

Tan

黒川さんが「周りの人がつくったものを、まず持ってきてくれる。“あそこなら置いてくれるだろうな”って思ってもらえる本屋を目指したらいいんじゃないか」って言ってくれて。

正直、そのときは、昔から本屋をやりたかった、みたいな明確な夢があったわけじゃなくて。でも、言われてみたら、確かにそういう場所があったらいいな、って強く思ったんですよね

Naru

うんうん。そうだったんだね。

Tan

全部は覚えてないんですけど、「本も無理に集めなくていい。コツコツ集めて、1年経ったら“あ、こんだけ集まってたね”くらいでいい」って言ってくれたのは、すごく覚えてて。

買い取りで一気に増やすんじゃなくて、委託でもいいし、無理に「回転だから何冊必要」みたいな考え方は、あんまりしないほうがいい、って。

いまも、あのとき言ってもらったことは本当にそうだなと思ってます。相談してよかったな、って。

Naru

いま聞きながら、思い出してたんだけど、あのときは、ふたりとも「本をどう管理するか」みたいな、運用面の心配が前に出てたよね。始める前って、自分がどう動くか想像できないから、運用が不安になるのはすごくよく分かる。

でも、その運用が、たん君や友松さんにとって、いちばん大事なことかというと、少し違うなって思った。本屋という場があることで発生するタスクの話だから、もちろん大事ではあるんだけどね。

Naru

お店を続けていく中で、じわじわ向き合うことになるのは、たぶん運用よりも、自己検閲のほうだと思ったんだよね。「俺たち、本屋やってる意味あるっけ?」みたいな疑問が、ちょっとでも顔を出し始めると、一気に続けるのがしんどくなる。

Naru

でも話を聞いていると、そもそもふたりって、モノのつくり手だしな、と思ってたし。本当に考えなきゃいけないのは、運用のことじゃないのかもしれない、とも感じた。

Naru

たん君と友松さんがplatform3というお店を持つ意味を考えると、自己顕示のためにやってるわけじゃないじゃん。

でも、ふたりがそこにいることで生まれる作品があったり、ふたりだからこそ説明できる本があったり、ふたりに会いに来る人がいたり。

そういうもの全部が、「やる意味」なんだと思う。たん君という存在が引っ張ってくる磁場、みたいなもの。友松さんがそこにいることで起きること、面白そうなことが、きっとたくさんある。話を聞きながら、そんなふうに思っていたんだよね。

自分ひとりでは届かないところ

Tan

不思議だなって思うんですよね。これだけ人のことを的確に見ている黒川さんでも、自分のことになると分からなかったり、迷ったりする。それがなんだか、面白いなって思っちゃうというか。

Naru

うん。これは本当に、何なんだろうね。自分のことは自分じゃ分からない、っていうのは、ほんとその通りだなって思う。

Tan

あと、他の人から言われる言葉って、すごく背中を押されたりしますよね。同じことを自分で自分に言っても、あんまり響かないことのほうが多いというか。

Naru

うんうん、そうだよね。たぶん、私があのときふたりに言ったことも、特別に新しいアイデアだったわけじゃないと思う。

Tan

あ、うん。

Naru

友松さんも、たん君も、本当は分かってたことだったと思うんだよね。でも、他のことが気になっていると、どうしても見えなくなってしまう。

だから、「当たり前のことに気づき直す」みたいな感覚だと思う。それを自分ひとりでやるのは、やっぱり難しくて。どうしても、他者が必要になる。

こういう体験、自分の人体実験を通してしか見えないことって、確実にあるなって、ほんとに思う。

Tan

確かに。最近、友達と話していて、「本って、人との疑似対話みたいなものだよね」っていう話をしてたんです。知らないものを得られたり、読んでいるうちに新しい気づきがあったり。

その流れで、その友達が「でもさ、本って自分に怒ってくれなくない?」って言ってきて。

Naru

うわあ、それ、めちゃくちゃいいね。

Tan

確かに、って思って。本って結局、自分ひとりで読んでるから、その「気づき」も、自分が気づける範囲にとどまってしまう

だから本も大事だけど、人と話さなきゃいけない、って言ってて。

Naru

いいね。めちゃくちゃいい。

Tan

それって、この人体実験も同じなのかも、って思ったんです。まあ、僕は黒川さんに怒ることは、たぶんないですけど(笑)。

Tan

でも、「お前、全然分かってねえじゃん」って、本は言わないじゃないですか。それが面白くて。

Naru

面白いよね。そう考えると、怒ってくれる人、けっこう好きなんだよね。

Tan

はいはいはい。

Naru

感情をぶつけてくる人って、やっぱり信用できるというか。パートナーもそのタイプで、毎日怒られてるんだけどさ(笑)でも、そういう人のほうが信じられる、って感覚はあるかもしれない。

Tan

ああ、分かります。良い悪いは置いといて、「ちゃんと向き合ってくれてるんだな」って感じがしますよね。何かを投げてくれてる、というか。

Naru

うんうん。自分と、自分と社会の距離感、みたいなものなのかな。そこがいちばん分からなくなりやすいからこそ、こういうやりとりを通して、少しずつ分かっていきたいんだと思います。

目指せポケモンマスター

Naru

距離感の話で言うと、仕事でも距離感について考えることがあって。ものをつくる仕事って、あんまり「自分のまま」で頑張りすぎると、どうしても傷つく場面が多くなる気がするんだよね。

自分と仕事、クライアントとのあいだに、ある程度の距離を保っておくことは、やっぱり必要なんじゃないかなと思ってる。

Naru

特に、誠実な人とか、「自分らしい仕事をしたい」って思っている人ほど、「自分として仕事をして、めちゃくちゃダメージを食らう」ことが起きやすい。

さっきも話したけど、答えのないものをつくっているから、そもそもズレるのが前提なんだよね。自分で突撃して、戦って、ダメージを受けて、しばらく再起不能になって、そのまま締め切りが来ちゃう、みたいなことも全然起こり得る。

Tan

わかります。フィードバックが人格を否定されているように感じてしまうとき、ありますもん。

Naru

ここでちょっと唐突に、ポケモンの話になるんだけど。こういうふうに「わからないもの」に向き合うものづくりをしている人は、ポケモンマスターになってほしくて

実際に制作で戦うのは「自分」じゃなくて、自分のポケモンであってほしいなって。

Tan

ポケモン...?

Naru

人それぞれ、自分の中にいろんな得意分野があると思うんだけど、たとえば、たんくんなら「文章にまとめるのが得意な自分」をポケモンとして扱う。

「たんくん本人」が前に出るんじゃなくて、編集が得意な子、テキストを書くのが得意な“たんくんのポケモン”を、ここにポンって出す。この子が「よし、文字書くぞ」「文章に起こすぞ」って仕事をしてくれる、みたいな感覚。

Naru

自我を切り離す、って言うとちょっと違うかもしれないけど。

そうすると、たとえばダメージを受けたときに、「ちょっと敵、強かったからさ。みんなポケモン貸してもらっていい?」とか、「あ、これは自分じゃ厳しかったな」「グラフィックが得意な人に頼もう」みたいな判断もしやすくなる。

Tan

自分と自分のスキルを切り離すことによって客観視もできるようになりそう。

Naru

会社のメンバーにも、前から「自分を使いすぎないでね」って伝えてはいたんだけど、正直、いまいちピンと来てなさそうで。

でも、この前このポケモンの話をしたら、ふたりともすごく腑に落ちてくれて。

私が思っている「みんなでつくる」って、勇者が一人で魔王を倒す、みたいな話じゃなくて。そこにいるポケモンたちと仲良くなって、いいチームをつくって、それぞれの力を活かしながら戦っていく。その先にある頂点を目指す、ってことなんだと思う。

だから、「自分を鍛錬する」というよりも、お互いを知って、どう組み合わせるかを学んでいく。そんな風に進んでいきたいな、って思っています。

Tan

すごく黒川さんらしい戦い方だと思います

(おしゃべり四夜目 おわり)

https://shipyard.design/exhibition/article04.html

プロフィール

黒川 成樹(くろかわ なるき)

SHIPYARDの人。つくることで見えてくる、その人らしさや、内に秘めた想いに共鳴するデザインを大切にしています。

丹澤弘行(たんざわ・ひろゆき)

ライター・編集者。出版ユニット(TT)pressのメンバー。東京・東中野で本屋「platform3」を運営しています。最近はギターを練習中。